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ヨウジ出身の新人デザイナーが10型・受注生産でデビューした理由

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「アマゾン ファッション ウィーク東京(Amazon Fashion Week TOKYO)」が開幕する直前の3月16〜17日、30歳の新人デザイナーが、東京・白金の奥まったギャラリーでデビューコレクションを披露した。「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」で経験を積んだ依田聖彦によるメンズニットブランド「ナヤット(NAHYAT)」だ。サンスクリット語で“編む”を意味するこのブランドのアイテム数は、わずか10型。卸はせず、完全受注生産という形を取る。派手さこそないものの、選りすぐった糸で編み出されたメンズのセーターは2万6000〜7万8000円。「僕個人が前にでなくていい」と自然体で語る依田デザイナーのインタビューをお届けする。
デビューコレクションの今回、見せたアイテムは10型のみで完全受注生産。その理由は?
前職では1シーズンに、秋冬だとニットで約60型、カットソーでも約40型を作っていました。いい悪いではなく、デザイナーブランドなのでランウエイで映えるための服も少なくない。独立するなら、そこからこぼれて消えてしまっていた部分を見せられる服を作りたかった。
どのような服?
見た目のかっこよさだけでなく、着た人が服を“嗜(たしな)む”ような、ストーリーのある服です。プルオーバーニットというベーシックなアイテム10型に絞り、卸をせず、完全な受注生産にしたのもそのためです。服の形だけでなく、糸や編み地などのウエアの機微に触れ、着た人が誰かに語りたくなるような服です。
アイテムを絞り、卸をせず、受注生産というのは、独立したばかりのブランドにとってはリスクもなく、クオリティを上げられる、ビジネス的にもうまいやり方だ。
価格は意識していますし、原価率もかなり高くしています。でもこのやり方にしたのは、着てもらう人に必ずウェブサイトを経由してたどり着いてもらうため。さっき言った通り、「ナヤット」が目指しているのは、“嗜む“服。そのストーリーを伝えるために、服の全てを語るウェブサイトを作った。「ナヤット」を着る人には、必ずそこを見てほしい。
ウェブサイトには、カラーや混率、価格といった通常のアイテム情報以外にも、糸の品種や番手、編み地のゲージ数、目付けも掲載。テキストではそうした定性的な情報に加え、加工方法や製品のコンセプトも詳しく説明していて、まるで製品のレシピのようだ。マネされてしまうのでは?
正直、マネされてもいいと思っています。「ナヤット」のアイテムは、もちろん糸にはこだわっていますし、素材と編み地の組み合わせの先に、「ナヤット」にしかないオリジナリティがありえると思いますし、今回もそういったアイテムを作れたという自負はあります。しかし、どれも市中の糸を使っているし、そもそもベーシックなプルオーバーニットで今さら本当のオリジナルなんて作れない、そう思いませんか?それにそういった意味でのオリジナルに、僕自身がまるで興味がない。僕は前に出なくてもいい。「ナヤット」のウェブサイトが最終的に目指しているのは、上質なニットウエアに関するアーカイブのようなもの。世界中の人に、上質なニットウエアの情報なら「ナヤット」を見ようと思ってもらえるようなプラットフォームにしたい。今後サイトに掲載する情報は「ナヤット」オリジナルのアイテムだけにこだわるつもりもありません。
デザインの原点は?
文化服装学院に入学するまで、ファッションには全くといっていいほど興味がありませんでした。高校も工業高校で溶接工の資格を取っていたので、漠然と衣食住に関わる仕事に就きたいなとは思っていました。文化(服装学院)を選んだのは、進路を考えようと思って開いた専門学校の案内書籍で一番最初に出てきたから。入学金がイタリアに短期間滞在しようとバイトして貯めていた金額とほぼ同じだったことも決め手でした。文化に入学してサンローランもヨウジも知らなかったのは僕くらいでしたが、最初の1年間は死ぬ気で勉強しました。2年生の時に原研哉さんの「デザインのデザイン」(2003、岩波書店)に出合い、自分が目指す方向性はこれだと思いました。自意識を前に打ち出したコレクションよりも、糸の表情やテキスタイルから滲み出す“何か”を形にしていきたい。4月14・15日には2回目の予約販売会を行います。ぜひいろんな人に見てもらいたいですね。